車を駐車や停車中に誰かにぶつけられてそのまま逃げられてしまう事故の事を「当て逃げ」と言います。車に乗っていたら相手を呼び止めたりナンバーをメモして警察に通報出来ますが、ぶつけられた時に自分がいないと犯人が分からないままになってしまいます。
「車に戻って来たらぶつけられていた」このような状況では何をして良いのか分からず立ち尽くしてしまいます。当て逃げは全体の自動車事故のうち少ない確率にはなりますが当社でも毎年10件以上は取り扱う事故です。
決して他人事の事故ではありません。自分の過失は一切ないのに相手がいないために泣き寝入りするしかないのか?それとも保険で直すことが出来るのか?
今回は当て逃げの対処法や保険の使い方について解説していきます。
Contents
当て逃げされたらどのように動けば良いのか解説
「当て逃げされた時の(警察・保険会社への対応)」当て逃げされた時に保険を使う事も大事ですが、それよりも相手が見つかる事の方が大事です。
まずは相手を特定できる可能性がある限り行動をする事をお勧めします。私は保険代理店で日々事故の対応をしています。
そのなかで契約者が過去に相手を見つける事が出来た対応を紹介します。
警察へ通報
当て逃げがわかった時にまずして欲しいのは警察への連絡です。警察に連絡をしてもちゃんと探してくれない。と思うかもしれませんが、警察に通報する理由は二つあります。
一つは犯人を見つけてもらうため。これは可能性は低いかもしれませんが、たまたま目撃者が出て来て警察に連絡を入れてくれる場合があります。相手のナンバーなどがわかっていれば見つかる可能性もあります。
もう一つは保険を使用する証明のためです。保険会社によっては被害届の必要は無い所もありますが、後から証明が必要と言われるのも手間になります。
そのため当て逃げが発覚した段階で当て逃げされた証明として警察に連絡をして被害届を出しておいた方が良いです。
目撃者を探す
当て逃げをされる場所の多くは駐車場です。あなたの車の他に何台か駐車されているようでしたら、目撃されていたかを駐車されている他の方に確認してください。お店の駐車場に止めていた場合にはそこのお店の方に話をして目撃情報を集めるようにお願いするのも良いです。
可能であれば警察と一緒にお店にお願いに行くとお店側も力を入れて協力してくれます。もしお店ではない駐車場であればあなたの車の周囲の方に目撃情報を集めてください。
乗車している方がいれば直接聞くのも良いですし、乗車されてないようであればメモ帳で目撃情報のお願いを書き残してワイパーに挟むのも効果的です。
フルネームや携帯電話の番号を書き込むと個人情報を悪用される恐れもあるので名字とGメールなどのフリーアドレスに連絡してもらうようにすると個人情報も限定的で安心です。
手間と思うかもしれませんが実際にこれで目撃情報を得られて賠償してもらえた事もあります。駐車している他の車の方がドライブレコーダーの映像が残っていたと連絡を受けたことがありました。そこからナンバーと車種を教えてもらえた事もあります。ぶつけた相手が見つかる可能性のある限り試してみてください。
スーパーやコンビニなどの駐車場であれば防犯カメラがあるか確認
スーパーやコンビニの駐車場には防犯カメラが設置されている場合があります。夜などは見づらいですが昼間であれば遠目から見てもナンバーがわかる事があります。
もしスーパーやコンビニで当て逃げされた場合には警察に通報して現場検証を行い、その足でお店の方に防犯カメラの設置の確認と映像提供の交渉をしてください。
大手のスーパーやコンビニなどは各店舗ではなく本部の許可が必要と言われますが、たいていの場合、警察から要請されれば見せてもらえます。
そのため、警察に通報して現場検証の後に警察官と一緒にお店の方と話をするのが効果的になります。
コンビニは特に駐車場を撮っているお店が多いので必ず確認をしてください。
ドライブレコーダーで録画している可能性もある
あなたの車にドライブレコーダーがついている場合、もしかしたら駐車中にも録画をされているかもしれません。
多くの方が運転中だけ映像を撮るの思ってしまいますが、中には駐車中にも映像を撮っているドライブレコーダーもあります。
自分のドライブレコーダーにはそんな機能はないと思うかもしれませんが、念のため過去の映像を見て駐車中に録画をしてないか確認だけはしてください。
目の前、乗車中に当て逃げにあった場合
あなたが車を停めて乗車中に相手がぶつけてくることもあります。こちらが車に乗っていてもぶつけた瞬間に勢いよく逃げる人もいます。その時は出来るだけ相手の車のナンバーは覚えておいておくと後で捕まりやすくなります。
そして警察に当て逃げの連絡を入れますが、ただの当て逃げではなくあなたがぶつけた衝撃で怪我をしたと警察に言ってください。なぜ怪我をしたというのが大事かと言うと、単純な車が壊れただけの当て逃げでは目撃者がいないとほとんど相手は見つかりません。警察もそこまで真剣に捜査はしません。
しかし、事故の被害者に怪我があったとなると話は別です。事故の損害や警察側の判断などにもよりますが、怪我をした場合、当て逃げではなくひき逃げとして警察が動く可能性があります。
ひき逃げは重い罰則がつきます。免許停止や取り消しなどの可能性もあります。ひき逃げ扱いになった場合には警察も車だけの当て逃げ被害と比べて相手を探すことに真剣に捜査してくれます。
もちろんその結果見つからない事もありますが、少しでも相手が見つかる可能性が高くなる方法として覚えてください。以上のように当て逃げされて自分で修理をする。保険を使わなければならないと考える前に相手を見つける方法を一通りやってください。
後ほど解説しますが当て逃げで保険を使う事は結局のところ自分自身が大きな損をします。何も悪くないのに大きな損をするのは非常に悔しい気持ちになります。
相手を可能な限り見つけて弁償してもらう。大変ですがまずはここから始めてください。
当て逃げでも車両保険は使える
一通り相手を見つけるための方法をやったものの結局見つからず、自力で修理をせざるをえない場合は契約している自動車保険で修理する方法を考えます。
あなたが契約している自動車保険で「一般条件」というフルカバータイプの車両保険に加入していれば当て逃げの修理代は補償されます。ただし、一般条件ではなくエコノミータイプの車両保険に加入の場合、当て逃げの損害は補償されません。
当て逃げで車両保険が使えない場合もある
車両保険に入っていても車対車限定の車両保険保険に加入している場合は当て逃げの補償はされません。車両保険には大きく分けて二つのタイプがあります。一つは自損事故や当て逃げでも補償されるフルカバーの車両保険です。
一般条件タイプの車両保険とも言われます。もう一つは車対車限定タイプ、エコノミータイプと呼ばれる車両保険です。車対車(エコノミー)の車両保険はフルカバーに比べて契約者の保険料は安いですがその分補償が限定的です。
自損事故と当て逃げは補償の対象外とされます。当て逃げで保険を使うと決めた時にはあなたの保険はフルカバーがエコノミーかを確認して保険会社に連絡してください。
当て逃げで車両保険を使うデメリット
「フルカバーの車両保険に入っていれば当て逃げでも保険使えるから加害者を見つけるのは面倒だからやめよう」そういう気持ちも出るかもしれません。
先ほど紹介した相手を見つける方法も手間が掛かる事なのでそこまでしたくないという気持ちは当然あると思います。
しかし、車両保険に入っていてもそこまでやらなくてはならない理由があるので説明します。
等級が3等級落ちてしまう
当て逃げで車両保険を使うと自動車保険の等級が3等級下がってしまいます。自動車保険の等級について良く解らない場合は別の記事で詳しく書きましたのでそちらも参考にしてください。
自動車保険の等級制度について当て逃げで自動車保険を使うと3等級下がるうえに事故あり等級というのが3年間適用されます。
そうすると3年間は今までより高い保険料を支払わなければなりません。
保険使用すると保険料がかなり上がってしまう
実際に当て逃げで保険を使うとどのぐらい保険料が上がるのか。金額を出してみました。
当て逃げされる前は下記のような条件、保険料になります。
【対象条件】
保険契約者(記名被保険者)
・32歳男性
・免許の色:ゴールド
・等級:15等級
※等級とはその人の事故状況によって保険料を決める、ランクのようなものです。最初は6等級から始まり、無事故であれば毎年1等級ずつあがり、最大20等級まであがります。
対象自動車:トヨタ・プリウス(型式:DAA-ZVW30)
初度登録:平成26年5月
【年齢条件】:30歳以上
【運転者限定】:本人・配偶者限定
【使用目的】:通勤・通学使用(年間走行距離10000キロ)
〇補償内容【イーデザイン損保にて試算】
【対人賠償】:無制限
【対物賠償】:無制限
(対物全損時修理差額費用特約付き)
【人身傷害】:5000万円(乗車中のみ)
【搭乗者傷害】500万円
【車両保険】:車両価格145万円 自己負担0円・2回目以降0万円
【その他特約】:弁護士費用特約(自動車事故のみ)・レンタカー費用5,000円
これが当て逃げのために保険を使うとどのぐらい値上げになるのか比較した表がこちらになります。
保険を使用しないで更新をした場合【イーデザイン損保で試算】
来年 | 2年後 | 3年後 | 保険料合計 | |
等級 | 16等級 | 17等級 | 18等級 | |
事故あり等級期間 | 0 | 0 | 0 | |
保険料 | 79,950円 | 78,410円 | 76,870円 | 235,230円 |
当て逃げで保険を使用した場合【イーデザイン損保で試算】
来年 | 2年後 | 3年後 | 保険料合計 | |
等級 | 12等級 | 13等級 | 14等級 | |
事故あり等級期間 | 3 | 2 | 1 | |
保険料 | 119,490円 | 116,310円 | 113,250円 | 349,050円 |
保険使用しない場合との差額 | 39,540円 | 37,900円 | 36,380円 | 113,820円 |
いかがでしょうか。当て逃げで保険を使用した場合、なにも事故が無く更新した場合と比較すると3年間の保険料の差額は113,820円にもなります。113,820円損したことになります。
つまり、あなた自身は何も悪い事はしていないのにぶつけた相手が逃げたせいであなた自身が大きな損をしてしまいます。
相手が悪いのに損をするのが被害者になるため、当て逃げの場合には相手を探すことが重要になるのです。
なぜ当て逃げは3等級ダウンになってしまうのか
車両保険は事故の状況に応じて1等級ダウンで済むもの、3等級ダウンになるものがあります。どの事故が1等級でどの事故が3等級ダウンになるかは別のページで詳しく書いていますので参考にしてください。
当社の契約者の多くの方から「当て逃げは盗難やいたずらに近い事故なのになぜ3等級下がるの?」と言われます。私も保険代理店に入る前は同じ気持ちでした。今でもその気持ちは良くわかります。
それではなぜ当て逃げが3等級ダウンになるかと言うと、悪意で保険を使う事を防ぐためです。
例えば、自損事故で少しこすってしまった傷を治したい時に当て逃げが1等級ダウンの事故であれば自損事故とは言わずに当て逃げされたと言う人がいるかもしれません。
実際に当て逃げなのか自損事故なのか判断がつきにくい傷もあるので保険会社としても当て逃げと主張されればそう判断せざるを得ない事もあります。いたずらによる引っかき傷などは自損事故の傷とは明らかに異なるので解ります。
自損事故の傷を当て逃げの傷と申告するような悪意のある保険請求を避けるためにも3等級ダウンにしていると推測されます。いずれにしても当て逃げで保険を使う事は保険料の大幅な値上げを覚悟しなければなりません。
だからこそなるべく当て逃げをした相手を見つける事に全力を注いで欲しいのです。
保険使用すべきか自己負担で修理すべきか悩んだ時は
当て逃げの相手が結局わからなかった時には保険を利用する選択肢を考えます。ところが修理代を見積もりした結果、意外に安い修理代になる場合もあります。
そういう時でも保険会社に連絡をしてください。そして、保険料の値上げがあっても保険を使った方が安いのか、保険を使わず自己負担で修理する方が安いのか保険会社へ計算を依頼してください。計算を依頼すると保険料金アップのシミュレーションを提出してくれます。通販型ではそのようなサービスが無い会社や依頼してもなかなか回答が来ない会社もあります。
そのような時は大手の損保会社から出されている保険料計算アプリで調べるのも一つの方法です。保険料の値上げと修理代を比較して保険を使用するかどうか判断をしてください。当て逃げされてすぐ保険会社に連絡をして保険を使う前提で修理工場と話を進めていても見積もりの結果、保険を使わないという判断も出来ます。
保険会社もそこまでの手間をかけたのだから保険を使わないと申し訳ないという気持ちになるかもしれませんが、その心配をする必要はありません。
保険会社に取って修理工場や事故の相手との交渉は保険のサービスの一貫です。保険使用が前提で無くてもわずらわしい見積もり依頼や相手とのやり取りはしてくれますので安心してください。
車両保険使用する場合の注意点
当て逃げの車両保険を使う上で知られていない注意すべき点があります。
当て逃げでは使えない特約がある
一般条件の車両保険に加入されていれば当て逃げの時に保険は使えますが、車両保険のオプションで入っている特約の中に当て逃げで使えないものがあります。
代表的なものが車両新価特約です。車両新価特約とは自分の車が壊れて修理代が新車価格の半額以上になった時に新車相当額の補償を受ける事が出来ます。
例えば新車で200万円だった車が事故にあい、100万円の損害になったとします。通常の車両保険では損害分の100万円を保険で補償しますが車両新価特約に加入していれば200万円まで補償してくれます。
しかし、この特約は当て逃げや盗難などは補償の対象外になります。このように通常の車両保険以外の特約で使えないものがあるので注意してください。
免責金額を設定しているとあまりお金がもらえない
車両保険には「免責」という自己負担額を設ける仕組みがあります。多くの方は免責金額を0円、つまり自己負担は無しに設定しますが、一部の通販型自動車保険では年2回目以上の事故の時は免責10万円を条件とする会社もあります。
免責を設定すると契約者が支払う保険料は安くなりますが保険を使う時に自己負担が発生してしまいます。免責がある中で当て逃げの損害が少額だとより契約者にとって自己負担が多くなってしまいます。
例えば、車両保険の免責が10万円の状態で当て逃げをされたとします。車の修理代が20万円となりました。通常なら車両保険で20万円を保険でまかなうものですが、免責10万円なので保険で支払われるのは10万円になってしまいます。
残りの10万円は自己負担で直さなければなりません。しかし、10万円でも保険を使用したので翌年の等級は3つダウンしてしまいます。そして、3年間は事故あり等級として保険料が上がってしまいます。
その結果、保険からもらえるのは10万円だったのに契約者は免責の10万円と保険使用に伴う保険料の値上げ分が3年間で約12万円だったとすると契約者が最終的に負担するのは22万円になってしまいます。
車両保険に入っているのに免責がある事で自己負担の額が増える可能性がある事も理解してください。
保険使用後は犯人が見つかっても賠償請求できない
当て逃げによって仕方なく車両保険を使って修理をした後に警察や目撃情報などによって犯人が見つかったとします。しかし、車両保険を使用した後では当て逃げした相手に賠償請求は出来ません。
理由は保険によって損害の補償はされているからです。そして賠償の請求権は補償をした保険会社に移ってしまいます。
保険料が上がって契約者も一定の損はしていますが、一番損をしているのは当て逃げの損害を補償している保険会社なので、加害者は保険会社に賠償する事になります。
とはいえ、契約者としても自分自身は何も悪くないのに保険を使うことで値上げした保険料を3年間支払わなければならないので賠償してもらいたい気持ちになります。そのため当て逃げの保険使用については可能な限り少し時間をかけて判断をする方が良いです。
まとめ
今回は自動車が当て逃げされた時にどう対処すべきかを解説しました。
今回の内容をまとめてみます。
・当て逃げされたらまずは警察へ連絡
・当て逃げをした相手をあらゆる手段で探す事が大事
・目撃者、防犯カメラの提供を可能な限り探す
・乗車中に当て逃げされたら人身扱いで対応してもらう
・当て逃げで車両保険は使える
・当て逃げで使える車両保険は一般条件のみ。車対車は対象外
・当て逃げで保険を使うと3等級下がり保険料が高くなってしまう
・車両新価特約は使えない
・車両保険に免責があるとあまり補償されない恐れがいる
以上になります。
冒頭にも書きましたが、大事なのは当て逃げされたから保険を使うことよりも、まずは加害者、犯人を見つける手段を可能な限り行う事です。
当社で当て逃げされた契約者が保険を使ってから数年経っても後悔の念を言ってきます。保険で治ったから良かったというものではありません。
そう言った意味でもまずは犯人を探すことに全力を注いでください。その後どうしても見つからず修理代が高額になるのであれば車両保険を使って修理してください。
何度も繰り返しますがなによりも犯人を見つけることを第一にしてください。
また、当て逃げの加害者にならないように無人の車にぶつけたら相手に名乗るようにしましょう。